桜林館は人が少ないものの、人が集まっている場所はひどく賑やかだった。人の輪があるけれど、その中心に誰がいるのかまでは見えない。
「はっは~ん……会長、バスケするつもりだね」
 ニッ、と笑って海斗くんが走り出す。
 どうやら、背の高い海斗くんには中に誰がいるのかが見えたようだ。
「会長っ、遊ぶんすか?」
「海斗っ、ひっさしぶりー! ちなみに、俺、もう会長じゃないからっ!」
 海斗くんが加わった場所から輪の中が見えた。中心には久先輩がいて、バスケットボールを指先で器用にくるくると回してはにこやかに笑っている。
 久先輩はボールを持ったまま跳躍し、身長差のある海斗くんとハイタッチを交わす。相変わらずの脚力と瞬発力。
「桜林館と言えばバスケっしょ!」
「いいっすね!」
 イヒヒ、といたずらっこのように笑うふたりを見ていると、後ろから冷ややかな声が降ってきた。