廊下に出ると、
「飛鳥、やりすぎだし」
 海斗くんが肩を竦めておかしそうに笑う。
「確かに……桜林館だって教室棟と変わらず空調管理されてんのにね?」
 河野くんが言いながら私たちを追い越した。私はふと、
「飛鳥ちゃんじゃなくて良かったの?」
「なんで?」
「……なんとなく?」
「変な気は遣いなさんなって。飛鳥となら部活でも会えるし冬休み入ってからでも会える」
「……そっか」
「そうです」
 変に自分が意識してたのかと思うと少し恥ずかしい。恥ずかしいから、私の手には少し大きな手袋の余った生地部分を摘んでもじもじした。
 海斗くんと飛鳥ちゃんが付き合い始めても大きな変化はなかった。クラスでは相変わらず五人でいることが多かったし、その中でふたりにしかわからない会話が混じることはなかったから。