「果歩さんと知り合いだったなんてびっくり」
「俺もびっくりした。まさか会うと思ってなかったから」
 重量センサーをパスしてエレベーターホールに着くと、唯兄が唇の前に人差し指を立てた。
「稀に唇読める人いるから、この先この話はNGね」
 唯兄に言われて口を噤む。いつもならあの部屋を出て果歩さんの話をすることはない。けれど、話す相手がいると口にしてしまうものだな、と気づき、改めて「秘密」の重さを肝に銘じた。

 エレベーターに乗り、かばんから携帯を取り出す。まだ電源を入れられるわけではない。携帯についてる三つのアイテムを見たかっただけ。ただ、見て安心したかっただけ。