騒がないでほしい。病室にいる果歩さんに心配をかけたくない。自分が病室から走り出てしまった時点でアウトかもしれない。果歩さんがベッドから下りてしまったらどうしよう――。
 そんなことばかりが頭を過ぎる。なのに、胃は全く別の動きをしている。
 胃におさまっていたものすべてを吐き出してしまった。目の前に、お昼に食べたものが消化されることなく広がっていた。
「すみませ……」
「戻せるなら全部戻してすっきりしちゃいなさい」
 小枝子さんが背中をさすってくれていた。と、そのとき――小枝子さんのPHSが鳴り出す。
 小枝子さんは背を撫でながらPHSに出た。
「はい――大丈夫、とは言いがたいですね。今、私の隣にいます。――果歩さん、ここは病院ですよ。たいていのことには対処できるものです」
 会話の内容に、私は視線のみを右にやる。小枝子さんの通話相手って――。