「はいはい、お姫様」
 楓先生は嬉しそうに簡易キッチンへと向かった。
「時間、大丈夫ならジュース飲んでいって? 楓さんとふたりだとまたケンカになりそうだし」
「でも、それ……」
 移動テーブルに広げられているものに視線を移すと、
「楓さんがいたらどうしたってやらせてもらえない。だから、翠葉ちゃんが帰るときには楓さんも連れて帰ってね?」
 それはそれはきれいな笑みでにこりと笑って言われた。
「はぁ……」
「それと――実のところ、ハープの演奏は聞いてみたいと思ってたの」
「え……?」
「うち、父がジャズピアニストだったの。だから、音楽には馴染みがあって……。もうどのくらい生演奏聴いてないかなー?」
 なんとなしに返してしまった。
「お父様、ピアノ、やめてしまったんですか……?」
 と。