楓先生が戻ってきたのは三十分ほどしてからのことだった。
「探したんだけど見つからなくて。帰りにもう一度探してみよう?」
「……先生、ごめんなさい。本当はポーチを忘れてきたというのは嘘なんです」
 先生はクスクスと笑った。
「うん、わかってた」
「え……?」
「俺と果歩のやり取り見たら、翠葉ちゃんがどう動くかはなんとなく検討ついてたから」
 やっぱり……。
「翠葉ちゃん」
「はい……?」
 果歩さんに視線を向けると、手に持っていたシャーペンを差し出される。
「この先端でザックリ刺していいと思うの」
 にこりと笑ってそう言った。
「いえ……あの……ここが病院とはいえ、それはやっぱりちょっと……」
 おずおずと後ずさりをすると、
「楓さん、翠葉ちゃんにジュース用意してあげて」
 それはお願いではなく、命令。