「私、ルームウェアに着替えてくるね」
 ひとり自室に入りドアを閉める。
「やっぱり訊けなかった」
「誰がいるの?」の一言。
 簡単な一言なのに声に出せない。そして、知ったところでどうすることもできないのだ。
 制服からルームウェアに着替えると洗面所へ向う。
 動作のひとつひとつが緩慢だ。
 洗面所へ行ってもいつもよりも時間をかけて手洗いうがいをする始末。
 私がリビングへ続くドアに手をかけるまでにいったい何分要しただろう。


「翠葉ちゃん、おかえりなさい」
「おかえり、遅かったわね?」
 栞さんとお母さんが、キッチンから交互に顔を覗かせた。
「うん。補講が終わったのが五時半だったの。帰りに佐野くんと会って、マンションまで送ってくれたからお夕飯に誘ってしまったのだけど……」
 ふたりの顔色をうかがうと、
「問題ないわよ」
 すぐに栞さんが答えてくれた。