「もう遅いから送ってく。七分で着替えてくるからちょっと待ってて?」
「えっ? いいよ、悪いよ」
 ようやく声に出したのは今このときで……。
「あ、喋った」
 佐野くんの周りにいた部員が口にしたのが聞こえた。
 一方、佐野くんは、
「これも一回頷くだけで良かったのに」
 と笑う。
「ホント、ちょっぱやで着替えてくるからのんびり昇降口まで歩いててよ」
「え、佐野君っ!?」
 佐野くんは私の返事を聞かずに走りだした。
 白いジャージが小さくなるのを見送ると、その場に残された人たちの視線がまだ自分に向いてることに気づく。
 どうしたらいいのかわからなくて、私は浅く会釈し、そっとテラスから離れた。