「……翠葉ちゃん、本当は人物名を出さずにその話を聞こうと思ったんだけど――ごめんね」
 え……?
「私、相手が秋斗くんだって知ってるの」
「ど、して――湊先生……?」
 先生は首を緩く振る。そして、「違うわ」と答えた。
「秋斗くんが相談しに来たのよ。……とはいえ、そのときじゃないわ。ずいぶんと時間が経ってからのことよ。そう、ちょうど紅葉祭のあとくらいかしらね」
 先生が知ってるということに驚きはしたけれど、かえって話しやすくなった。
「彼が……秋斗くんが何を私に話したか知りたくない?」
「……でも、それは秋斗さんの悩みごとなのでしょう?」
「そうであってそうじゃない……かな?」
 ここにきて初めて先生が曖昧な言葉を口にした。
 どいう意味だろうか、と考えて数秒。
 やっぱり訊いてはいけない気がした。だって、それは秋斗さんの悩みごとだから。