「翠?」
 声をかけると、
「髪の毛、ちゃんと乾かさないとだめだよ?」
 言いながら振り返り、俺の頭をじっと見て「あれ?」という顔になる。
 なんとなく翠の思っていることを察し、
「翠の髪を乾かすほど時間はかからない」
 何を口にしたわけでもなかったが、翠は納得したように見えた。
 翠は買ってきたであろう飲み物をカップに半分ほど注ぐと、水道の水を足そうとする。
 俺は無言でその動作を止めた。
 水道のレバーを閉めると、
「え?」
 翠が不思議そうに俺を見上げる。
「そこに電気ケトルあるから、足すならお湯にして」
「あ、うん……」
 飲み物を薄めるのは相変わらずか……。
 そんなことを思いながら、翠が電気ケトルに水を入れる姿を見ていた。