洗面所に入れられて、すぐにドライヤーを手に取れたわけじゃない。
 翠がリビングではなく玄関へ向かったから、一瞬あとを追いそうになった。
 そうしないで済んだのは、カサリ、とビニール袋を拾い上げる音がしたから。
 音はカサカサ、という小さなものへと変わり、洗面所の前を通過した。
 翠は買ってきたものを取りに玄関へ行っただけだった。
 どれだけ臆病になっているのか、と自分にうんざりする。
 手早く髪を乾かし洗面所を出ると、部屋のカーテンが空けてあり、室内の照明が点けられていた。
 廊下から見える位置に翠はいない。
 歩みを進めると、ダイニング手前にあるキッチンにいた。
 キッチンの奥を見て、なぜか首を傾げている。