翠の手が頭から離れる。
 今度こそ呆れられたかもしれない。
 翠から発せられる言葉を身構えていると、
「ツカサ、唯兄お勧めのコーヒーとサンドイッチを買ってきたから、ちゃんと髪の毛乾かしてから食べよう? 私も朝ご飯食べなくちゃ」
 予想だにしない言葉をかけられ戸惑う。
 翠の頭は正常に動いているのだろうか。
 翠の手は、俺の両腕を掴んでいた。
 俺がこの腕を解いたら、力を緩めたらどうする……?
 すぐにでもここから逃げていなくなるだろうか。
 ほんの少し力を緩めると、腕を掴んでいた手は俺の手をぎゅ、と握りしめた。
「ちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃうよ」
 翠は俺の手を引いて廊下を進み、洗面所へ俺を押し込んだ。