「ツカサ、風邪ひくっ」
 ドアが開き、耳に飛び込んできたのは翠の声だった。
 ドアはすぐに閉まり、ほかの誰が入ってくるでもない。
 翠は俺の首にかけてあったタオルに手を伸ばすと、それを俺の頭にかぶせた。
 一瞬だけ耳に触れたコートがあたたかかった。
 外から来たはずの人間なのに、それを包む空気がとてもあたたかく感じた。
 シャワーより、部屋の空気より、ほかの何よりも――。
 気づけば俺は翠を抱きしめていた。
「つ、ツカサっ!?」
 驚いた、というように声を発するが、そのあとにはなんのリアクションもない。
 なんで――どうして翠は抵抗しない?
 抵抗されない理由を自分に都合よく捉えてしまいそうになる。
 翠は俺の頭を両手で押さえ、俺の胸に額をくっつけてゆっくりと口にした。