光のもとでⅠ

「なら、財布だけ持っていけば? そのほうが荷物が少なくて合理的だと思うけど」
 合理的な「正論」を突きつけると、ほぼ俺の思惑どおりになった。
 俺は自分の財布を翠に持たせ、かばんを人質に翠をこの部屋から出した。

 翠が一階に着いた頃を見計らって電話をかけると、三コール目で通話状態になる。
『な、何?』
「俺、その財布がないとバスに乗る金ないから」
『……うん、わかった』
「じゃ……」
 一方的に通話を切り、その場にしゃがみこむ。
「……脅迫してまで戻ってきてほしいか?」
 答えは、是。
 わかっていてもやめられない。