俺はこんなにも恥ずかしいと感じているのに、翠の手がいつもどおり冷たいのとか、手をつなぐとほっとした表情を見せるのとか、目の前にいる翠があまりにもいつもと変わらなくて、変わらなさすぎて――。

『無事仲直りおめでとう』
 携帯から先輩の声が割り込んだ。
 翠は「ありがとうございます」と答えたくせに首を傾げてどこか疑問形。
 明らかに語尾が上がっていたにも関わらず、先輩は気にせず話を続ける。
『今ちょうど六時回ったところ。司、学校行くでしょ?』
「……行きます」
 学校を休むつもりはなかった。
『じゃぁさ、もう少しゆっくりしていけば? 駅からならバスの始発にも乗れるし、七時四十分までに出れば間に合うから。あぁ、俺のかばんだけ今持ってきてくれる?』
「わかりました」
 スピーカーホンにしてもいないのに、三人の会話が成り立つ状況。