光のもとでⅠ

 顔を上げると、翠が真っ直ぐ俺を目指していた。
 けれど、視線が交わることはない。
 無意識に前へ伸ばされた手が証拠。
 眩暈を起こしたまま歩いている。
 そして、足元に転がっていたクッションに躓いた。
 ほんの数秒間の出来事。
 自分の目の前で翠が崩れ落ちる。
 反射的に出した手を俺は引っ込めた。 
 触れたくて、触れられなくて――。
 翠の膝が着地した場所は、俺の足の内側だった。
 痛みに顔をしかめるものの、それを声に出すことはない。
 もしかしたら、「痛み」全般を我慢することに慣れすぎているのかもしれない。