一階の明るい色調とは打って変わり、光沢感のあるグレーに若葉色を合わせたしっとりとした印象。
 すべての部屋が個室になっており、それなりに人は入っているものの、一階ほどの賑わいではない。
 店員にバタバタしている様子もなく、部屋から出てくる際には腰を折り一礼して出てくる。
「大勢で酒を飲めばテンション上がるのが普通です。飲み屋なんてたいていそんなもんですよ。でも、それを好まない人もいますし、周りを気にせず飲みたい人もいる。二階はそんなニーズを担って全室に防音が完備されているそうです」
 蔵元が開けた部屋には見知った顔が揃っていた。
 声をかけたいのにかけられない理由――みんながみんな探知機を手に不審な動作をしているから。
 正確にはアンテナを四方八方へ向けて盗聴器チェックをしている。
「何してんですか……」
 呆れた口調で唯が言うと、
「秋斗様がいらっしゃるわけですから、念入りに盗聴器チェックはしなければと思いましてっ」
 真面目な顔で返される。
 言われたことを真に受けて、一瞬頭が真っ白になった。
「や、冗談ですってば! これ、中身カラですからっ、なっ!?」
 返事を求められた人間たちがそれぞれ反応する。
 中には箱の蓋を開けて見せる人間もいた。
「ほら、自分、もともと精密機器工作課の人間なんで、こういういたずら大好きなんですよ」
 たはは、と笑う男は倉田篤弘(くらたあつひろ)は頭をかいて笑って見せた。