光朗道を抜け庵前まで来ると、俺は彼女に声をかけた。
「俺、今日は歩きなんだよね。翠葉ちゃんは?」
「行きは蒼兄と一緒に来たんですけど、何事もなければ帰りは歩いて帰るって話しています」
「じゃ、マンションまで一緒だね」
 司だけが置いてけぼりの会話。
 会話に加わらない時点で司はひとり藤山にある自宅へ帰ると決まったようなもの。
「司、またな」
「今日はありがとう」
 俺と翠葉ちゃんは司に声をかけ、大学へ向かって歩き始めた。
 彼女は気づかなかったみたいだけど、俺はずっと背中に視線を感じていた。
 司、欲しいものには手を伸ばさないと……。
 でなければ、俺は何度でも司の前から翠葉ちゃんを連れ去るよ。
 俺と彼女を取り合うって、つまりそういうことだろ?