散策ルートに入り、なだらかな坂道を歩く。
 ここはばーさんのことだけを想って作られた場所だからこそ、優しさで溢れている。
 愛が溢れている……。
 山道だというのにアップダウンが少なく、歩きやすいように考えられている。
 山は自然を侵さない程度に手入れがされており、いつ来ても何かしら花が咲いていた。
 今は紅葉(もみじ)の見頃は少し過ぎてしまったが、そこかしこに小さな菊が顔を覗かせている。
 黄色、白、ピンク、赤、薄紫――。
 翠葉ちゃんが見たら喜ぶだろう。

 俺は藤棚にあるベンチに腰を下ろし、ふたりが来るのを待っていた。
 十分ほどすると足音が聞こえてきた。
 聞こえる足音はひとり分。
 この不器用そうにゴツゴツと音を立てて歩いているのは翠葉ちゃんだろう。
 足元はローヒールのブーツかな。