パレスから帰った翌日、四時過ぎくらいだっただろうか。
 小会議室で残務処理に追われているとじーさんから連絡が入った。
 スペースがあまり広くないということもあり、携帯に出るのは憚られる。が、そこはなんといっても会長相手。
 席を立ち、仕方なしに通話ボタンを押す。
「はい」と応答しつつ、俺は蔵元のパソコンのキーをひとつだけ押した。
 それは「1」。
 会長が来ているという意味ではなく、通話相手がじーさんだと伝えるための行動。
 蔵元が頷いたのを確認してから会議室をあとにした。
「なんでしょう?」
 人気のない廊下でも声は響かない。
 このフロアは床材に絨毯が使用されており、壁材も人の声や物音を反響させないよう考慮されている。