優太はシャワーコックを全開に捻って出ていく。
「ほーら、久先輩も。あなた仮にも受験生なんだから、しっかりあったまって風邪とかひかないでくださいよ?」
 隣のブースに押し込まれたであろう人間の声が、シャワーの音に紛れて聞こえてきた。
「司、あったかいね」
 つぶやきのような声が反響する。
 けれど、それはすぐシャワーの音にかき消された。
 シャワーは湯気を上げながら床に打ち付けられ、足元には飛沫が立つ。
 もうもうと煙るシャワーブースは水浸しの服を纏っていてもあたたかいと感じる。
 徐々になくなりかけていた指先の感覚が戻ってくる。
 まるで、血がめぐり始めたのを合図にするかのように思い出す。
 寒い池での出来事を。
 十日前からの出来事を――。