「手を上げるなんて野蛮なっ」
 越谷がキッ、と翠を睨みあげる。しかし翠は、
「野蛮で結構よ……」
 別人のような声を発した。
 夏、入院を説得しに行ったときなど比ではない。
「私、人にされて嫌だと思ったことはしない主義なの。――本当は、本当はっ、あなたの携帯を同じように池に落としてやりたかったっっっ」
 怒鳴っただけ。
 それだけなのに、翠の肩は上下に動いていた。
 爆発――たとえるならこの言葉しかない。
 翠の感情は、たかだかひとつの携帯で爆発した。