翠に近づき、
「大丈夫か?」
 声をかけたが下を向いたまま何も答えない。
 いつものように「邪魔しないで」という怒声は返ってこなかった。
 きっと、池に落ちた携帯のことで頭がいっぱいなのだろう。
 この場を片付けたらすぐに話すから、もう少しだけ待っていてくれ。
「武明さん、その人を学校長のところへ連れていってください」
「かしこまりました」
 学校長には越谷が動き出した時点で秋兄から連絡が入っているはず。
 武明さんが越谷に近づこうとしたそのとき、トスン――翠のかばんが地面に落下した。
「待ってっっっ」
 翠が動き、武明さんと越谷の間に入る。
 しかし、顔は地面を向いたまま。
 翠の表情を見ることはできない。髪が邪魔だ。