光のもとでⅠ

 なのに、鍵の隣にあるとんぼ玉に翠が一度も触れなかったから。
 視線を感じたのか、翠は携帯をポケットにしまった。
 そして、「湊先生のところに行かなくちゃ」と席を立ち教室を出ていく。
 週に一度、月曜の昼休みに保健室で診察、というのは未だ続いているようだ。
 翠がいないのならこの場にいる意味もない。
 俺は早々に翠のクラスをあとにした。

 階段を上がりながら思う。
「携帯、ね」
 翠のことだ。
 携帯にはロックも何もかけていないだろう。
 御園生さんから聞かされてきた情報からすると、翠は機械にはとことん疎いようだから。