「……何か起きるかもしれないし、何も起きないかもしれない。そんなどっちともわからないものに期限なく怯えさせたくはない」
 記憶だって戻って間もない。
 今度は姉さんがため息をついた。
「何……」
「……あんたの優しさは本当にわかりづらい。っていうか、見えづらいわ」
「褒め言葉として受け取っておく」
「これが褒め言葉に聞こえるならあんたの耳は末期よ」
「末期の耳を持っていないと付き合いきれない身内がいるから仕方ない」
 皮肉に皮肉を返し、姉さんに背を向けた。
 ドアを開けようとして一拍置く。
「姉さん……」
「何?」
 問いかけられた言葉に背を向けたまま言葉を続ける。