エンターキーを薬指で叩き、ディスプレイに右下に目をやる。
 デジタル表記は十時を告げていた。
 充電が終わった携帯を手に取り翠にかけるもつながらない。
「三十分置きにかければ次かその次には出るか……」
 携帯をデスクに置き、同じデスク上に置いてあったファイルを手に取った。
 このファイルは秋兄が作ったもの。
 秋兄が作るファイルは社用とプライベートなものでは仕上がりにずいぶんと差が出る。
 社用のものは誰が見てもパーフェクトとしか言いようのない精度を誇るが、プライベートで使われるものに関しては脳内補完が多分にあり、事前情報を持ち合わせない人間が見たところで文字の羅列、無秩序にファイリングされた不親切極まりない杜撰なものにしか見えない。