「はい」
『司、おまえどこにいるんだよ』
「藤山」
『は? 道着で家に帰ったの?』
「いや、そういうわけじゃない。何か用?」
『何か用、じゃないよ。もう七時っ! 部活終了時間! 道場の鍵どうしたらいい? ついでに部室も』
 静かな庵にやかましいケンの声が響く。
 俺のモノマネなんかするから、そこで聞き耳を立てているじーさんがくつくつと笑っている。
「悪い、すぐに戻る。道場も部室の鍵も俺が閉めるから帰ってくれて構わない」
『……なんかあった?』
「いや……」
『まぁいいや。十五分くらいで戻ってくるんだろ?』
「あぁ」
「じゃ、待ってるよ』
「帰ってかまわない」
『うっさいな、俺が待つって言ってんのっ』
 そこで通話が切れた。