じーさんは木箱を開けると、そっと中に入っているものを取り出した。
 さらに柔らかな布で包まれていたそれは、藤色のグラデーションがきれいなマグカップだった。
「前に会うたときに約束しておっての。おまえたちがお嬢さんを一向に連れてこぬから渡す機会がなかったんじゃ」
 なんで責められるような言い方されてるのか理解不能。
 俺も秋兄も無視を決め込んだ。
「狸どもめ……」
 誰が……。
 じーさんが一番の狸だろ?
 そう思ったのは俺だけじゃないはず。
 じーさんは翠の身体を気にしたのか、パレスに戻ってきたら風呂に入れるよう従業員へ指示をしてきていた。
 翠を待つ間、応接室には会話という会話はとくになく、ただただ重い空気だけがそこにあった。