「ろげん、って何?」
「あぁ、司も知らないよな」
 俺だって彼女から聞かなければ今でも知らないままだっただろう。
「じーさん、趣味で陶芸やってるだろ? その作品をうちのデパートの雑貨屋に置いてるんだ。その陶芸作家の名前が『朗元』。ばーさんの和名、『朗良(ローラ)』の『朗』にじーさんの『元』で『朗元』」
 司はこめかみを押さえた。
「じゃぁ、翠は今喋ってる相手が俺たちのじーさんであることも藤宮財閥の会長であることも知らないわけ?」
「知らないだろうね。彼女にとっては大好きな陶芸作家の朗元以外の何者でもないはずだ」
 司は信じられない、と言った顔をしていた。
 彼女は森までの小道が滑らなかったかとじーさんに尋ね、じーさんはさっき俺たちの前で飛び跳ねた見せたときのように得意げに答えた。