「うっ、夜は寒いなぁ……」
 目の前にいる男は薄手のTシャツしか着ていない。
 無駄な贅肉どころか必要な肉もほとんどついてない人間には堪えるだろう。
 俺はシャツの上にパーカを着ているものの、やはりそれほど重装備ではない。
 たかが十階から九階へ下りるだけ。
 そのつもりだったからだ。
「あなたに用はないんですが……」
「邪魔」であることを伝えると、白々しい笑顔を向けられた。
「リィに用っていうか、勉強教えに来たんでしょ?」
 俺は無言で頷いた。
 わかっているならそこをどけ。
 そんな視線を向けると、再度にこりと笑みを返される。