金曜日の昼休み――。
 翠のクラスへ行こうと廊下に出ると、翠がテラスにいるのが目についた。
 風が吹いた瞬間に右頬が露になり、携帯で話していることがわかる。
 笑っていた。
 俺がここ最近見ていない屈託のない笑顔で……。
 誰と話しているのかを気にしつつ、俺は行き先をテラスへ変えた。
 二階へ下りテラスに出るドアを開けると、翠の向こうに秋兄の姿が見えた。
 恐らく、秋兄も翠がテラスにいるのを見つけて出てきた口だろう。
 俺に気づいた秋兄は口元に笑みを浮かべ、最後の一歩と共に持っていたジャケットを翠の肩にかけた。
 翠はゆっくりと秋兄を振り返る。
 秋兄は不自然にならない動作で俺の方へ顔を向けた。
 わざと読唇させるために。