俺は今、ウィステリアホテル内にあるスタジオでスタンバイしている。
 これから起こるのは「ドッキリカメラ」みたいなもの。
 でも、これは俺が仕掛けたんじゃなくてオーナーが仕掛け人。
 もっと言うなら、俺だって仕掛けられた側の人間だと思う。
「なんだ、浮かない顔して」
 俺の肩を叩いたのはこの場の総責任者、佐々木繁春(ささきしげはる)三十八歳。
 通称、シゲさん。
 俺は普通にシゲさんって呼んでいるけど、ほかには「総長」なんて呼び名があったりする。
 ここはホテルの中でも異質な場所だと思う。
 ほかの部署で「総長」なんて呼ばれているボスはまずいないだろう。
 シゲさんは広報部の一員で、カメラ機材の管理とカメラマンの管理を一手に任されている人。
 因みに、俺のスケジュール管理や撮影に応じてアシスタントやスタッフを揃えてくれるのもシゲさん。
 つまり、俺が久遠として活動するのに必要不可欠な存在。