車にエンジンをかけると、俺はいつものように車に背を預け、彼女がやってくる通路を見ていた。
 数分もすると、図書棟と桜林館の間にある通路に姿を現す。
 いつもより早い歩調でやってきた彼女は少し息が上がっていた。
「お待たせしました」
「そんなに待ってないよ」
 俺が助手席のドアを開くと、彼女の動作が一瞬止まった。
 さっきと同じように、次の動作に移る前にワンクッション置く。
「どうかした?」
「いえ、お邪魔します……」
「なんでもない」と念でも押すかのように、わずかな笑みを添えられた。