「いらっしゃい」
 声をかけると、首を傾げて「どうして?」という顔をする。
「仕事部屋から、翠葉ちゃんがこっちに向かって歩いてくるのが見えたんだ」
 彼女は、「あ」と小さく口を開ける。
「ジャケット、かな?」
 彼女の手に持つ手提げ袋を見て尋ねると、彼女は申し訳なさそうな顔をした。
「はい。お返しするのが遅くなってしまってすみません……」
「そんなことないよ。まだ持っていてもらってもかまわなかったんだけどね」
「……え?」
「ほら、そうしたら俺が翠葉ちゃんを尋ねる口実になったでしょ?」
 俺は彼女が苦手とする笑顔を向ける。
 すると、彼女は困った顔をしてほんの少し顔を赤らめた。