光のもとでⅠ

 今の会話を聞かれてしまったのだろう。
 俺たち医者には「守秘義務」という大義名分があるわけだけど、それをこの場で振りかざすのは司にとって残酷すぎる気がした。
「昨夜から三十八度台の熱があったんだけど、夜に何度か戻して朝には四十度越え。姉さんが朝一でゲストルームに下りて診察。インフルエンザの可能性があったからすぐに病院へ搬送された。検査の結果、ばっちり陽性。薬を飲ませても戻しちゃって水分も摂れないからそのまま入院。今四十一度突破したみたい」
 今得た情報を簡潔に伝えると、司はこんなことを言いだした。
「兄さん――悪いんだけど、俺にリレンザ処方してくれない?」
「……司くん、それはつまりどういう意味かな?」
 司は予防接種を受けている。
 さらにはこの年にしては珍しすぎるくらいに自己管理能力が高い。
 それがどうして……?