「先輩……?」
「いや……」
 いやって、だめってこと……?
「だって、これから毎日来てくれるのに何もお返しができないのは嫌です」
「……それじゃ食後にお願い」
「はい!」
 ピアノを習っていたとき、ピアノの先生がしてくれたマッサージを覚えている。
 すごく気持ちが良くて、蒼兄やお母さんたちにもしてあげたくて覚えたのだ。
 小さい私の手でも両手を使ってツボさえきちんと押さえられれば効果がある。
 司先輩みたいに全身の力を使ってするようなマッサージには私の体は向かないだろう。でも、手の平ならできる。
 目の前に自分にできることがひとつ浮上するだけで気持ちが軽くなるのがわかった。
 自分がここにいる意味。自分に今できること。
 それらは私にとってはとてもとても大切な存在理由なのだ――。