光のもとでⅠ

 あれは、そう簡単に忘れられるものではない。
 何度となく恐怖に呑まれ、やみくもに手を伸ばした。
 縋るものが欲しくて、あたたかな手が欲しくて――。
 その手を掴んでくれたのはツカサだった。
 ……ツカサがあんなにも強い力で私を抱きしめていたのは、その恐怖を感じていたから?
 声が思考を寸断する。
「でも、きついなら俺がその財布預かるし。今から部屋に戻って翠葉ちゃんのかばん取ってくるよ」
 久先輩がドアを開けようとしたのを外側から押さえた。
「唯兄、蒼兄……。あとからツカサとバスで帰る」
「リィっ!?」
「ごめんっ――でも、学校は休むって約束するからっ」
「ちょっと、あんちゃんっ」
 唯兄が蒼兄に援護を要求すると、蒼兄はハンドルにもたれかかり苦笑を浮かべた。