エレベーターの扉前で再度QRコードを求められ、携帯を翳してからエレベーターに乗り込むと、自分で階数を指定せずとも五階のボタンが点灯した。
 このマンションでは、住民以外の人間がマンションへ入る場合、あらかじめQRコードを発行して不審者の立ち入りを防いでいるらしい。
 QRコードを持たない人は従来の方法どおり、マンションの入り口で訪問先の家番号を入力し、住人にロックを解除してもらう必要があるという。
 エレベーター特有の浮遊感を全く感じないまま五階に着き扉が開く。
 エレベーターを降りると、正面の壁にフロアマップが表示されていた。
 5010号室はエレベーターからは少し離れた場所にあり、非常階段の脇に位置していた。
 ひとつ角を曲がり、通路を真っ直ぐ行くとその部屋の前に出る。
 表札に名前は出ておらず、ただ煌々とポーチ内の明かりが灯っていた。
 音が立たないようにポーチを開け、インターホンを前にゴクリ、と唾を飲み込む。
 心の中でゆっくりと数を数える。
 ツカサの声ではなく、自分の声で。
 十、数えよう。十、数えたらインターホンを押そう。