「翠葉ちゃんってまるでピアノと会話してるみたいね?」
 突如聞こえた声にびっくりする。
「……いつから?」
 美波さんがピアノに身を乗り出してこちらを見ていた。
「ん? 結構前よ? やっぱり気づいてなかったんだ」
 と、笑われてしまう。
 美波さんはピアノから身体を浮かすと、
「ちょっと待っててね」
 と、キッチンへと見えなくなった。
 ピアノの蓋を閉じラグの上に座って待っていると、お茶とゼリーが出てきた。
「はい、ローズヒップティーと栞ちゃん特製のコラーゲンたっぷりゼリーよ!」
 みかんのゼリー……。
 透明のガラスの器に入っていて、見た目がとても涼しげなゼリーだった。
「本当はね、お買い物は私が頼まれたの」
 美波さんの言葉にはっとして顔を上げる。
「今は翠葉ちゃんの側を離れたくないから、お買い物頼まれてくれませんか? って。でも、断っちゃった。私が翠葉ちゃんとお話をしたくてね」
 と、やっぱりどこかいたずらっ子のように笑う。