秋斗さんの優しい声が、「翠葉ちゃん」と私の名前を呼ぶ。
「少しずつ……少しずつ進もうよ」
 少し、ずつ……?
「今ここで一気に全部話さなくていいと思う」
 顔を上げると、秋斗さんの褐色の瞳に自分が映っていた。
「さっき話したのは抱えている悩みの一部だよね。きっと、片鱗みたいなもの。でも、それは小さく見えても俺と翠葉ちゃんにとっては小さくないし、とても重いものだよね? ……気持ちはさ、大切なものほどすぐには片付けられないと思うんだ。だから、今日はここまで」
 諭すような話し方だったけど、表情は違う。
 まるで私の承諾を待っているように思えた。
「覚えていてくれる?」
 何を……?