ふと首元に手を伸ばすと鏡に映る自分と目が合った。
 そして、角度をずらすとくっきりと浮かび上がる赤い痣が目に入る。
「っ…………」
 途端に涙があふれだす。
 小説には今の私とはまったく違うことが書かれていた。
 好きな人につけられた印が嬉しく感じるとか、その印があるだけで身近に感じることができるとか――。
 でも、私――全然嬉しくない。身近に感じたいなんて思ってない。
 好きだけど、怖い――。
 こんなもの、今すぐにでも消してしまいたい。
 そう思ったが最後。気づけば首が真っ赤になるほどウォッシュタオルで擦っていた。

「翠葉ちゃーん? 大丈夫ー?」
 ドアの外から栞さんの声がした。
 涙は流れたまましゃくりあげていたため声も出せない。
「開けるわよ?」
 後ろのドアがスライドされた。
「翠葉ちゃんっ!?」
「し……栞、さん――」
 栞さんは何もいわずに抱きしめてくれた。