具沢山の筑前煮に肉厚な塩サバ。
 塩サバには軽く水切りした大根おろしが添えられている。
 あとはお豆腐となめこのお味噌汁にほうれん草の胡麻和え。
 色が少ない中に出し巻き卵の黄色が映える。
 それから、ただ切っただけのトマト。
 栞さんが用意してくれる食卓はいつでも彩が豊かなものだった。
 栞さんがそこにいるだけで空気があたたかくなる。
 そんな人に誤解をさせてしまって申し訳ないと思った。
 夕飯が終わると、私は食器の片付けをしている栞さんの隣に並んだ。
 ちゃんと話したいと思うのに、腰を落ち着けて話す気にはなれなかったのだ。
「栞さん」
「なぁに?」
 穏やかな表情を返され、これから話すことでその表情がどれほど変わってしまうのか、と不安になる。
 それでも私は話すのだ。
「私、記憶が戻りました」