マンションに帰ると、「家」の匂いにほっとする。
「唯兄、スヌードありがとう」
「うん、貸しておいて良かった。まさか白野に行くとは思ってなかったからね」
 ほんの少し咎めるような声音に聞こえたけれど、それは次の瞬間に払拭される。
「ほら、手洗いうがいと着替えを済ませたらすぐに夕飯っ! あったかいもの食べてあったまろう」
 ポン、と背中を押されて洗面所に入れられた。
 着替えを済ませてダイニングへ行くと、すでにテーブルの上にはぐつぐつと煮立ったお鍋があった。
「リィはシンプルな水炊きが一番好きなんでしょ?」
「うん、好き。お出汁の香りとお野菜たっぷりのスープが好き」
 湯気の立つお鍋を囲み、取り留めのない話をしながら夕飯を食べた。
「翠葉、食欲ないのか?」
 蒼兄に訊かれて少し困る。