「司先輩……。でも、勉強や読書の時間――」
「一時間くらい問題ない」
「でも……」
 どうしたらいいのかわからなくて蒼兄を見ると、
「甘えたら?」
 と、言われた。
 もう一度司先輩を見ると、
「翠が決めていい」
 と、言われる。
「さっきも言ったけど、司の腕は保証するよ?」
 自慢げに楓先生が話す。
 もう一度司先輩を見ると、先輩は口を閉じて私を見下ろしていた。
「本当に……いいんですか?」
「問題ない」
「……お言葉に甘えます。お願いします」
「了解」
「それからっ……具合悪いの、気づいてくれてありがとう」
「それ、俺からも感謝」
 蒼兄も司先輩に頭を下げた。
「いや……ただ何時か確認するのに携帯見たら血圧の数値が高かったから」
 でも、それで走ってきてくれたことに変わりはなくて、とてもありがたいことだと思った。
「さ、もういい時間だ。蒼樹くんと司は休んで?」
「翠の点滴は?」
「俺、明日夜勤だから点滴が終わるまでついてるよ」
 えっ――。
 頭が痛くてそこまで考えられなかった。そうだ、点滴の針を刺したともなれば抜く作業があるわけで、刺したらそれで終わりじゃなかった。
「翠葉ちゃん、余計なこと考えてない?」
 楓先生がベッドに腰掛け私を見下ろす。
 あぁ、この位置関係は入院してた頃と一緒……。お昼前に顔を出してくれたとき、たいていはベッドに腰掛けて「ご飯食べよう」って声をかけてくれた。
「翠葉ちゃんも休もう?」
「……はい」
「よし、いい子だ」
 頭に大きくて優しい手が乗せられる。この手は頼っていい、お医者様の手だ――。