私は朗元さんの言葉を胸に歩きだす。
 大理石の床は一歩踏み出すたびにコツ、と硬質な音を立てた。
 フロントを通り過ぎると床はふかふかの絨毯に変わる。
 今度は踏み出すたびに沈み込むのを感じながら、足を交互に踏み出した。
 気持ち――。
 それは未知の世界だ。
 関係をリセットする方法ならあった。
 とても手っ取り早い方法をここに来る前、静さんに提示された。
 それはいっぺんに何もかもを失う方法だった。
 関係を絶つ、という方法はこれ以上にない方法だろう。
 でも、私はそれを選ぶことはできなかった。