席に戻ると、備え付けのテーブルを開くように言われた。
 その上に、先ほど買ったであろうペットボトルと割り箸を置き、ウィステリアホテルの手提げ袋の中から正方形の平たい箱を取り出した。
 それは藤のプリントがされた不織布に包まれている。
 包みを解いて現れたのは、紅葉祭のときに見たお弁当箱と同じものだった。
「お腹は空いてらっしゃいませんか?」
「あ……」
 言われてみれば、お昼ご飯を食べたあとは飲み物しか口にしていなかった。
「でも、これ……木田さんのお弁当なんじゃ……」
 木田さんはクスクスと笑う。
「私も年ですからねぇ……。こんなにたくさんは食べられません。それに、これは須藤くんがお嬢様用に作ったメニューと同じものです。彼がどんな料理を作るのかと思い、私にも同じものを用意していただきました」
「そうなんですか……?」
「はい。若槻くんが事前にオーダーしていたそうですよ」