蒼兄に手を伸ばすと、いつものように抱き上げてくれる。
 キッチンの前を通ると栞さんが、
「あとで薬持っていくわね」
 と、声をかけてくれた。
 ベッドに横になるとドアまでついてきてくれた司先輩が目に入る。
 途端、夕飯前にこの部屋であったやり取りを思い出す。
「翠葉?」
「あ……なんでもない」
「そうか?」
「うん」
 今、上手に笑えただろうか。
 せっかく訊かないでくれているのだから、私だっていつまでも気にしているわけにはいかない。
 そういえば、秋斗さんと若槻さんは夕飯どうしたのかな……。今は十階の秋斗さんの家にいるのだろうか。
 ……やっぱり、メールか電話をして謝らなくちゃだめ?
 でも、どうしてか謝る気にはなれなくて――。
 それはきっと、私がきちんと納得していないからなのだと思う。