指定席へ移動する途中で発車ブザーが鳴った。
 その音に足を止めると、
「心細いですか?」
「……私、電車で遠くへ行くのが初めてなんです。それと、家族が一緒じゃないのも……」
「さようでしたか。……それでは、今このときは私を家族とお思いください」
 木田さんはにこりと笑い、
「あと三列先の左側が私たちの席ですよ」
 指定席に着き、コートを脱いで腰を下ろしたら再度携帯が震えた。
 着信したのは唯兄からのメールだった。