なんだか不思議な気分だ。
 美鳥さんが自信たっぷりに口にすると、なんてことなかった言葉までもが大きな力を持っているように感じる。
 少し前よりも、うんと心が軽くなった気がした。
「……美鳥さん、ありがとうございます。リビングへ行けそう」
 そう言うと、美鳥さんはにこりと笑んだ。
「それでは、立ち上がりの儀式を行おう」
「……え?」
「この手が必要であろう?」
 訊かれてこくりと頷く。
 もしかしたら、この部屋に入る前に私の体調のことを少し聞いたのかもしれない。
 私は差し出されたゴツゴツとした手を取り、ゆっくりと立ち上がって部屋を出た。
 今までこんな手に触れたことはない。とても力強い手だった。
 廊下の先にはトーテムポールのように、一番下に海斗くん、次に栞さん、次に蒼兄の順で頭が並んでいた。
「ほら、見てごらん? あのバカ面を」
 美鳥さんは、くくっ、と笑う。
 リビングに着くと、
「いい加減、篭るのはやめろ」
 と、司先輩にお小言を食らった。
 この人にこれを言われたのは何度目だろう?
 考えるくらいには何度も言われている気がする。