「その恥ずかしさとはどのくらいだろうか」
「……今まで生きてきた人生で一番くらいです」
「ほほぉ……それは興味深い。で、それはなんだろうか?」
「キスマークで――」
 ついうっかりと口が滑ってしまった。
 どうしてだろう……。別に誘導尋問をされているわけでもなかったのに。
「それはどれくらいのものだろうか」
 美鳥さんの質問はまだ続く。
「自分では見える場所ではないので程度問題はお答えしかねます」
「つまりは首の後ろか背中ということだな」
 せっ、背中なんてあり得ないっっっ。
「首ですっ」
 慌てて否定すると、
「よし、私が鏡を調達してこよう」
 と、すっく、と立ち上がり部屋を出て行った。
 自分の意見を言う間もなかった。
 先輩が"独特な世界観"と言っていたのが少しだけわかった気がする。
 そして美鳥さんはすぐに戻ってきた。
「さぁ、見るかね?」
 鏡をふたつ私に提示し、
「現実はしっかりと受け止めなければならぬものだ」
 言われて、ぐ、と歯を食いしばる。
「ほら、自分で鏡を持って」
 小さな手鏡と顔全体が映る大きさの鏡を渡される。
「覚悟ができたなら照明を点けよう」
 私は震える手で鏡を受け取った。それが合図となり、美鳥さんが部屋の電気を点けた。
 ピッ、という音と共に明るくなる室内。
「背面の鏡とこの長い髪は私が持っていよう」
 と、美鳥さんが髪を束ねてくれた。